<両手一杯の「ことば」セラピーと心の松明(たいまつ)・羅針盤>31
<最近、私の心を魅了してやまない夏目漱石の世界>
* <愛嬌というのはね、 自分より強いものをたおす やわらかい武器だよ >
「虞美人草」の中の一節で、主人公の一人である宗近が許嫁(いいなずけ)の異母兄(いぼけい)から言われた言葉。これに対し宗近は<それじゃ無愛想は自分より弱いものを、こき使う鋭利なる武器だろう>と返す。鉄のような強く固い態度だけが、相手を打ち負かす手段ではない。
* <自ら得意になるなかれ、自ら棄(す)つるなかれ、黙々として牛のごとくせよ>
夏目漱石の日記に書かれていた言葉。<汝(なんじ)の現今(げんこん)にまく種は、やがて汝の収むべき未来となって現(あら)はるべし>という言葉が続きます。自らを過信したり自暴自棄になったりすることなく、自分ができることを黙々と進めることが大事であるという意味です。
* <離れれば いくら親しくっても それきりになる代わりに、一緒にいさえすれば、たとえ敵同士でも どうにかこうにか成るものだ。つまりそれが人間なんだろう。> 「道草」より
* <智(ち)に働けば角(かど)が立つ。 情に棹(さお)させば流される。 意地を通せば窮屈だ。 兎角(とかく)に人の世は住みにくい。> 「草枕」より
* <呑気(のんき)と見える人々も、心の底を叩(たた)いて見ると、どこか悲しい音がする> 「吾輩は猫である」より
夏目漱石のデビュー作である本作は、中学校の英語教師である珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)のもとへやってきた猫を語り手に、珍野家とその周辺の人たちの人間模様を風刺的に描いた作品ですね。この長編小説の最後は、迷亭と独仙が苦沙弥先生の家で囲碁をしているところから始まります。いつもみんな言いたい放題。そして日は暮れ、一人ひとりと帰っていきます。すっかり寂しくなった座敷で、吾輩は<呑気と見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする。>と、感想を漏らすのです。
(次に続きます。)
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